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高松地方裁判所 平成10年(行ウ)6号 判決

原告

右補佐人

被告

高松税務署長 藤原孝信

右指定代理人

鈴木博

中條晴之

白石豪

海野眞次

福家郁夫

田中稔

中野明子

山本光則

主文

一  本件訴えのうち、原告の平成六年分の所得税の更正請求に対して平成八年六月二八日付けで被告が原告に対して行った更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消すとの部分は却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告の平成六年分の所得税の更正請求に対して平成八年六月二八日付けで被告が原告に対して行った更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

二  被告が原告に対し平成八年六月二八日付けでした平成六年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、別紙物件目録記載の各土地(以下、甲ないし丙土地を合わせて「本件各土地」という。)の長期譲渡所得金額の計算が違法であることを理由に、原告の平成六年分の所得税の更正請求について更正すべき理由がないとした被告の通知処分、並びに原告の平成六年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定の取消しを求めた事案である。

二  前提となる事実(証拠番号の記載のないものは、当事者間に争いがないか、当裁判所に顕著な事実である。)

1  原告は、平成六年分の所得税について、法定申告期限(平成七年三月一五日)までに、本件各土地に係る長期譲渡所得の金額を二二四四万七〇八五円(内訳・収入金額三六八四万九八八〇円、必要経費一二六九万八二四七円、特別控除額一七〇万四五四八円)、納付すべき税額を四九九万四八〇〇円とする確定申告を行った。

なお、右確定申告の際に、確定申告書と共に提出された譲渡所得計算明細書には、甲土地及び乙土地の取得費として「A七九七万八〇〇〇円」の記載があり、右明細書には、七九七万八〇〇〇円の額面が記載された有限会社A(以下「A」という。)発行の昭和六〇年一二月二五日付領収証(写し)(以下「本件領収証」という。)が添付されていた(甲二〇、弁論の全趣旨)。

2  原告は、「長期譲渡の土地原価の計算やり直し」との理由で、平成八年三月一五日、平成六年分の所得税について、長期譲渡所得の金額を〇円、納付すべき税額を〇円とする更正の請求を行った。

3  被告は、平成八年六月二八日付けで、右更正の請求に対し、更正をすべき理由がない旨の通知を行うとともに(以下「本件通知処分」という。)、同日付けで、平成六年分の所得税について、長期譲渡所得の金額を二八四八万八八五二円、納付すべき税額を六四四万四七〇〇円、重加算税額を五〇万四〇〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件重加算税賦課決定処分」という。以下、両処分を合わせて、「本件更正処分等」という。)を行い、そのころ、右書面は原告に送達された。

4  これに対して、原告は、本件通知処分及び本件更正処分等を不服として、平成八年八月二一日、被告に対し、異議申立てを行ったところ(以下「本件異議申立て」という。)、被告は、同年一一月二〇日、本件異議申立てを棄却する旨の決定をした。

5  原告は、右棄却決定を不服として、平成八年一二月一六日、国税不服審判所長に対し、審査請求を行ったところ(以下「本件審査請求」という。)、国税不服審判所長は、平成一〇年六月二四日、右審査請求を棄却する旨の裁決を行い、そのころ、右裁決書は原告に送達された。

6  原告は、平成一〇年九月二四日、本件訴えを提起した。

7  原告の本件各土地の取得状況は次のとおりである。

(一) 甲土地

原告は、昭和四七年三月五日、甲土地を売買により二〇〇万円で取得した(乙二の1、2、三の1、四の1ないし3、弁論の全趣旨)。

(二) 乙土地

原告は、同日、乙土地を売買により取得した(乙五、弁論の全趣旨)。

(三) 丙土地

原告は、昭和二七年六月一〇日、丙土地を交換分合により取得した(乙六、一五、弁論の全趣旨)。

8  本件各土地の譲渡所得に関する内容は次のとおりである。

(一) 譲渡収入額

(1) 甲土地の譲渡収入額 一〇〇〇万円

原告は、平成六年一一月二八日、右金額で、甲土地を丙に売却した。(乙二の1及び2、三の1、四の1ないし3、弁論の全趣旨)

(2) 乙土地の譲渡収入額 二〇九万九八八〇円

原告は、平成六年一一月一〇日、売買により、右金額で乙土地を香川県香川郡香川町に売却した。(乙三の1、五、弁論の全趣旨)

(3) 丙土地の譲渡収入額 二四七五万円

原告は、平成六年三月八日、右金額で、丙土地を丁に売却した。(甲五の1、乙三の2、六、一五、弁論の全趣旨)

(二) 譲渡に要した費用

(1) 甲土地の譲渡に要した費用一一〇万五〇一二円

(2) 丙土地の譲渡に要した費用九一万八六三六円

(三) 丙土地に関する工事費用

原告の依頼により、Bがなした丙土地の壁の嵩上工事(以下「丙土地に関する工事」という。)費用は五〇万円である。

9  本件各擁壁の位置

甲土地及び乙土地上には、擁壁がある(このうち、別紙図面記載の北側二六・二一メートルと記載された部分の擁壁を以下「本件北側擁壁」という。)また、本件北側擁壁に続く南側には二七・七三メートルにわたって、同様に擁壁がある(別紙図面記載の二七・七三メートルと表示された部分の擁壁を以下「本件南側擁壁」という。また、本件北側擁壁及び本件南側擁壁を合わせて「本件各擁壁」という。)が、本件南側擁壁は甲土地及び乙土地上にはない。

三  争点

1  本件更正処分の取消しに加えて、本件通知処分の取消しを求めることは適法か。

2  本件各擁壁工事の費用は、甲土地及び乙土地の取得費といえるか。

3  丙土地に関する工事費は構築物の取得費であるか、それとも、丙土地の取得費であるか。

4  重加算税の要件の有無

四  争点に対する当事者の主張

1  本件更正処分の取消しに加えて、本件通知処分の取消しを求めることは適法か(争点1について)。

(原告の主張)

本件異議申立て及び本件審査請求において、本件更正処分等だけでなく、本件通知処分の内容についても審理されたのであるから、被告が、本件訴訟に至って、本件通知処分を取り消すとの訴えの却下を求めることは信義に欠ける。

(被告の主張)

本件通知処分は申告税額の減少にのみ関わり、減額を否定するものであるのに対し、本件更正処分は納付すべき全体に関わり、実質的には申告税額等を否定し、これに増額変更を加えて税額を確定するものであるから、本件更正処分は本件通知処分の内容を包摂する関係にある。

したがって、原告は、本件更正処分に加えて、本件通知処分の取消しを求める利益を有しないというべきであり、本件訴えのうち、本件通知処分を取り消すとの部分は不適法である。

2  本件各擁壁工事の費用は、甲土地及び乙土地の取得費といえるか(争点2について)。

(被告の主張)

本件各擁壁の工事は、C株式会社の開発していたDタウンへの進入路工事に関連して、E株式会社(以下「E」という。とF協同組合が、昭和五〇年ころまでに行ったものであり、甲土地及び乙土地自体の造成費ではない。また、C等が、本件各擁壁工事及び右開発事業に関連して、原告に工事負担金等を請求した事実はない。

さらに、本件南側擁壁工事は甲土地及び乙土地上にないから、甲土地及び乙土地の取得費と解する余地はない。

したがって、本件各擁壁工事の費用は、甲土地及び乙土地の長期譲渡所得の金額計算における取得費に該当しない。

(原告の主張)

(一) 本件北側擁壁工事費用について

通学路として危険であるとの理由で、当時のPTA戊教育長等から擁壁工事の依頼を受けた原告が、昭和六〇年一二月ころ、当時の三宅香川町助役に工事の主体を一任して本件北側擁壁工事を発注し、己助役及び当時の工事責任者であった庚を通じて、その工事代金七九七万八〇〇〇円を工事施工者らに支払ったものであるから、本件北側擁壁工事費用は甲土地及び乙土地の長期譲渡所得の金額計算における取得費に該当する。

(二) 本件南側擁壁工事費用について

(1) 原告は、以下アないしエのような債権の合計につき、〈1〉その支払に代えてEから本件南側擁壁を譲り受けた、あるいは、〈2〉Eが施工した(ただし、実際の工事は下請であるGが昭和五二年以前に行った。)本件南側擁壁工事費用と相殺したものであるから、右擁壁を有償に取得したというべきであって、本件南側擁壁工事費用は甲土地及び乙土地の譲渡所得の金額計算における取得費に該当する。

ア 原告は、昭和四八年ころ、Eに対して、辛の代わりに上万塚の田約一反(三〇〇万円相当)を提供した。

イ 原告は、Eに対して、埋立土砂を無償提供した。

ウ 原告は、昭和四八年から昭和五二年八月までの間、Eが原告に毎月九万ずつ支払うと約束した役員報酬(闇給与)の合計約三〇〇万円を受け取っていない。

エ 原告は、Eに代わり、地権者二八名の固定資産税約一〇万円を支払った。

(2) たしかに、本件南側擁壁は甲土地及び乙土地上にはないが、本件南側擁壁工事がなされていなければ、甲土地は危険で、本件のような値段で売却することができなかったはずであるから、本件南側擁壁工事の費用は甲土地及び乙土地の長期譲渡所得の金額計算における取得費に該当する。

3  丙土地に関する工事費は構築物の取得費であるか、それとも、丙土地の取得費であるか(争点3について)。

(被告の主張)

丙土地に関する工事は、丙土地を造成又は改良するための土留工事であり、土地と分離区分した構築物と解することはできないから、右工事費用を構築物の取得費として、丙土地の長期譲渡所得の金額計算における取得費に加算することはできない。

(原告の主張)

丙土地に関する工事は、コンクリートの二度打ちがなされ、立ち上がり勾配が地面の垂直になったものであるから、横からの土圧に耐えられない上、ハウス暖房のための防音壁としてなされたものであるから、その工事金額である五〇万円から償却相当額を差し引いた金額である四七万一二五〇円を、譲渡所得から構築物の取得費として控除すべきである。

丙土地に関する工事は、

4  重加算税の要件の有無(争点4について)

(被告の主張)

原告は、架空の本件領収証に基づき、甲土地及び乙土地の取得費を過大に計上して、確定申告書を提出したのであるから、国税通則法六八条一項の重加算税の要件に該当する。

(原告の主張)

本件領収証は、以前にあった、事実関係に基づき、平成三年ころ再発行してもらったものであり、架空の領収証ではない。

重加算税の要件として隠ぺい仮装行為の故意が必要であるところ、原告は、本件領収証のことを詳しく税理士に説明していなかったため、原告の代理人である右弁護士が本件領収証を用いて確定申告をしたものであり、原告に故意はない。隠ぺい仮装行為はあくまでも納税者本人に限定されるべきである。

第三当裁判所の判断

一  本件更正処分の取消しに加えて、本件通知処分の取消しを求めることは適法か(争点1について)。

1  更正の請求に対する理由がない旨の通知処分と増額更正処分は手続的に別個の処分であるが、同一人の同一年度の所得税に関して、更正の請求に対する理由がない旨の通知処分がなされるとともに増額更正処分がなされた場合には、徴税権者が、右通知処分により、更正の請求をした者の課税標準、税額等が総額として申告額を下回ることがないことの確認を行うとともに、更正の請求を機会に調査を行い、これに基づいて従前の課税標準、税額等を全体的に見直し、申告された税額も含めて、納税すべき総額を確定するものであるから、右増額更正処分の内容は右通知処分の内容を包摂しているというべきである。このような場合にまで訴訟において通知処分の不服を認める必要はなく、かえって審判の対象を複雑にするものであるから、増額更正処分の取消しに重ねて通知処分の取消しを認める合理性はない。

したがって、同一人の同一年度の所得税に関して、更正の請求に対する理由がない旨の通知処分がなされるとともに増額更正処分がなされた場合において、増額更正処分の取消しに重ねて通知処分の取消しを求める場合には、その訴えの利益を欠くというべきである。

これを本件についてみるに、前記第二の二2及び3のとおり、本件通知処分は原告の平成六年分の所得税に関してなされ、本件更正処分は、原告の平成六年分の所得税に関して、本件通知処分とともになされた増額更正処分であるから、本件更正処分の取消しに重ねて本件通知処分の取消しを求める訴えは、その利益を欠くことに帰する。

2  これに対し、原告は、本件異議申立て及び本件審査請求において、本件更正処分だけでなく、本件通知処分の内容についても審理されたのであるから、被告が本件訴訟に至って、本件通知処分を取り消すとの訴えの却下を求めることは信義に欠けると主張する。たしかに、国税通則法の諸規定に照らせば、行政不服申立手続の場面においては、通知処分と増額更正処分とは別個に不服申立ての対象となることを前提としていると解されるが、両処分が包摂する関係にあるような場合であっても、行政不服申立手続の段階では、行政庁に再考の機会を与えるなどの見地から別個に不服申立ての対象とすることにしたものと解することができるから、右両処分につき、取消訴訟における訴えの利益の観点から右各処分の適法性を判断することが許されないわけではないというべきであり、原告の右主張は採用できない。

3  したがって、本件訴えのうち、本件通知処分を取り消すとの部分は不適法である。

二  本件各擁壁工事の費用は、甲土地及び乙土地の取得費といえるか(争点2について)。

1  証拠(乙八、一〇、一五、一七ないし一九、二三、証人壬)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

(一) Dタウンの開発工事は、Eが発注し、Cがこれを受注して行われた。本件各擁壁工事は、Dタウンの開発工事の一環として、Dタウンに通ずる進入路を確保し、災害を防止するために、右擁壁に沿った道路の舗装工事と共に、昭和四九年から行われた。本件各擁壁工事を含めた開発工事は昭和五〇年九月に全て完了した。

(二) Cは、Dタウンの開発工事に関連して、用地内の土砂が不足していたため、原告に対し、原告所有の三谷町の山の土砂の提供を依頼したところ、原告はこれに応じ、右土砂代金と、Cが行う右山の整地工事代や運び出す費用等とを相殺することとなった。右土砂は、Dタウンの盛土に使用された。

(三) Dタウンの土木工事完了報告書には、本件各擁壁工事が完了した趣旨の記載がある。

2  本件各擁壁工事が、右Dタウンの開発工事よりも後である昭和六〇年ころのモデル事業の工事の際になされた旨の記載のある証拠(甲四二)が存するが、証人癸の証言でも明らかなように、確かな記憶に基づくものではないから、右証拠によっても、右1の事実を覆すに足りない。

3(一)  原告は、本件北側擁壁工事に関して、昭和六〇年一二月ころ、己助役に工事の主体を一任して本件北側擁壁工事を発注し、己助役及び当時の工事責任者であった庚を通じて、その工事代金七九七万八〇〇〇円を工事施工者らに支払ったと主張し、これに沿う供述を行うが、原告本人の右主張自体、本件口頭弁論を通じ、工事を依頼した相手やその経緯について著しく変遷している上、右1の事実(特に本件各擁壁工事が行われた時期)に照らし、採用できない。

(二)  また、原告は、本件南側擁壁工事に関して、前記第二の四(争点に対する当事者の主張)2(争点2)の(原告の主張)(二)(1)のとおり主張する。

しかし、そもそも、原告が有償に本件南側擁壁を取得したと主張しながら、このような極めて重要な点につき、その取得方法が譲渡なのか、単に費用と相殺しただけなのかそれ自体が不明であり、年数の経過や原告本人が高齢であることなどを考慮したとしても、不自然というほかない。また、前記第二の四(争点に対する当事者の主張)2(争点2)の(原告の主張(二)(1)アないしエの主張についても、金額などその内容が主張の度に変遷している(例えば、右イの埋立土砂代金はその額が二〇〇〇万円ないし二五〇〇万円あるいは四八〇〇万円などと変遷している。また、右エの固定資産税についても、本件審査請求における審理においては、六〇万円となっていた。)上、原告の右主張に沿う原告本人の供述についてみてもその内容が曖昧というほかなく、これに加えて、右1で認定した事実(右イの埋立土砂代金が既に山の整地工事代等と相殺されていることなど)、及び他に右アないしエを認めるに足る的確な証拠のないことなどを併せ考慮すると、原告の右主張は採用できない。

4  以上より、右1の事実を前提にすると、原告が本件各擁壁工事費用を支払った、あるいは自己の債権と相殺したとは認められないから、本件各擁壁工事費用は、甲土地及び乙土地の設備費又は改良費とはいえず(所得税法三八条一項参照)、したがって、甲土地及び乙土地の長期譲渡所得の金額計算における取得費に該当しない。

三  丙土地に関する工事費は構築物の取得費であるか、それとも、丙土地の取得費であるか(争点3について)。

土地について行った防壁工事その他土地の造成又は改良のために要した費用の額は、土地の取得費として、譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する対象となるが、その規模及び構造等からみて土地と区分して構築物の取得費と解するのが相当な場合の費用については、土地の取得費に算入しないで、構築物の取得費に算入することができると解される。これを前提に本件についてみるに、証拠(甲六、乙九、一五、二一)によれば、丙土地に関する工事の見積書には「土留工事」と記載され、その工事内容は、丙土地の南側及び西側の壁の嵩上げ工事であるが、既存の壁を基礎部分から補強するとともにその高さを既存の壁より四〇ないし六〇メートル嵩上げした(西側道路より約一・四ないし一・六メートル高くなった。)こと、丙土地は東側が道路に面して最も高く、南西方向に著しく傾斜した地域に位置しているところ、原告が丙土地を譲渡した時点において、壁の高さは丙土地の東側の道路面とほぼ水平となったこと、現在、右壁の高さまで土が盛られ、丙土地はその地面がほぼ水平になって宅地化しており、右壁も土圧に十分耐えていることが認められ、以上の事実を前提にすれば、丙土地に関する工事は、その規模及び構造等に照らし、丙土地の造成又は改良のための費用と解するのが相当であり、丙土地と区分して構築物の取得費と解することはできない。

原告は、丙土地に関する壁の嵩上げ工事はハウス暖房のための防音壁を設置したものであり、防音壁は構築物にあたると主張するが、右認定のとおり、右工事は宅地造成のための土留工事として施工されたことに照らし、採用できない。

したがって、丙土地に関する工事費は丙土地の造成又は改良に要した費用であり、丙土地の長期譲渡所得の金額計算における取得費である。

四  重加算税の要件の有無(争点4について)

1  証拠(甲二〇、乙一五)によれば、以下の事実が認められる。

本件領収証は昭和六〇年一二月二五日付けであるが、平成五年一一月以降に発行された収入印紙が貼付されている。また、本件領収証には、工事内容の明細が記載されているが、通常、Aでは右のような明細を記載していない。

Aの代表者aの妻が、平成五、六年ころ、aの父(先代の代表者)に依頼されて、Aの売上に上がっていないにもかかわらず、本件領収証を作成した。

原告は、乙土地を香川町に売却するにあたって、本件領収証を町役場の職員に示し、本件領収証に記載された金額である七九七万八〇〇〇円を支払って擁壁工事を行っているので、この補償をしてほしいと申し立てたが、香川町は、これを拒み、買収の規定どおりの金額である二〇九万九八八〇円で乙土地を原告から購入した。

高松税務署の国税調査官が、平成七年一一月一〇日、原告に本件領収証の作成の経緯について尋ねたところ、原告は、自分がAの先代の代表者に依頼して、金額の算定、作成をしてもらったものであり、A自体が工事をした事実はないと回答した。

2  以上の事実並びに前記二1及び2の事実を前提に検討するに、原告は、本件各擁壁工事費用を出費しておらず、また、Aが工事をした事実もないのに、Aの先代の代表者に依頼して、本件領収書を作成したものであるから、本件領収証は架空のものというほかなく、前記第二の二1のとおり、原告は、平成六年分の所得税に関する確定申告の際に、甲土地及び乙土地の取得費を証する資料として、架空の本件領収証を提出し、その結果、原告の右申告は長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除すべき取得費を計上した過少の申告となっている。

したがって、国税通則法六八条一項の重加算税を課する場合に該当するというべきである。

3  これに対し、原告は、甲土地の売買代金額が低かったことなどから、失意のあまり、本件領収証のことを詳しく税理士に説明していなかったため、原告の代理人である右税理士が本件領収証を用いて確定申告をしたものであり、原告に故意はない、あるいは、隠ぺい仮装行為はあくまでも納税者本人に限定されるべきであると主張する。

しかし、国税通則法六八条一項の重加算税は、違反者に対する刑罰ではなく、納税者がその税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装を行い、これに基づき納税申告書を提出し、よって、過少申告加算税を課せられる場合に成立するものであり、かかる方法によって納税義務違反の発生を防止し、もって徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であるから、客観的にみて、隠ぺい又は仮装がなされ、これに基づいて過少申告という納税義務違反の状態が生じていると判断されるものであれば足りるというべきであり、重加算税の要件として、納税者に隠ぺい、仮装に当たる事実についての故意が必要ではあるが、それ以上に、過少申告や税を逋脱する目的を有することなどは要求されないというべきである。また、納税者自身が隠ぺい、仮装及び納税申告書の提出を行っていないような場合であっても、実質的に納税者本人の行為と同視しうる場合には、国税通則法六八条一項の重加算税の要件を充たすというべきである。

これを本件についてみるに、本件領収証を添付して確定申告を実際に行った者が右税理士であるかどうかは証拠上必ずしも明らかではないが、本件において、仮に原告が右税理士に依頼して確定申告を行った場合であっても、原告は架空の領収証であることを認識しながら、これを右税理士に預けて確定申告を依頼しているのであるから、納税者本人の行為と同視しうるというべきであり、また、重加算税の主観的要件としても十分である。したがって、原告の右主張は採用できない。

五  本件更正処分等の適法性

1  本件更正処分の適法性

前記二ないし四の判断を前提に本件各土地の課税所得を計算する。

(一) 取得費

(1) 甲土地の取得費

前記第二の二7(一)及び同8(一)(1)のとおり、甲土地の取得に要した費用が二〇〇万円であり、前記二のとおり、他に甲土地の取得費は認められない。そして、甲土地の譲渡収入額一〇〇〇万円の一〇〇分の五に相当する金額五〇万円は右二〇〇万円に満たないから、右二〇〇万円が甲土地の長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費となる(平成七年法律第五五号による改正前の租税特別措置法(以下「改正前の措置法」という。)三一条の四第一項ただし書準用)。

(2) 乙土地の取得費

前記第二の二7(二)及び同8(一)(2)のとおり、乙土地の取得に要した費用については、金額が不明であり、前記二のとおり、他に乙土地の取得費は認められないから、改正前の措置法三一条の四第一項本文を準用して、乙土地の譲渡収入額二〇九万九八八〇円の一〇〇分の五に相当する金額である一〇万四九九四円が乙土地の長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費となる。

(3) 丙土地の取得費

丙土地は、前記第二の二7(三)及び同8(一)(3)のとおり、昭和二七年六月一〇日に交換分合により取得されたものであり、丙土地の譲渡収入額二四七五万円の一〇〇分の五に相当する金額である一二三万七五〇〇円(改正前の措置法三一条の四第一項本文)が、丙土地の取得価額と丙土地に関する工事費五〇万円の合計額に満たないことが証明されていないから、右一二三万七五〇〇円が丙土地の長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費となる。

(二) 特別控除額

(1) 甲土地及び丙土地の特別控除額

甲土地及び丙土地の長期譲渡所得の特別控除額は一〇〇万円である(改正前の措置法三一条四項)。

(2) 乙土地の特別控除額

乙土地の長期譲渡所得の特別控除額は、乙土地の譲渡が収用等のためであるからその特例が適用となり、乙土地の譲渡所得の金額一九九万四八八六円(乙土地の譲渡収入額である二〇九万九八八〇円から前記概算取得費一〇万四九九四円を控除した金額)が五〇〇〇万円に満たないから、その額である一九九万四八八六円が特別控除額となる(改正前の措置法三一条の四第一項)。

(三) 課税長期譲渡所得の金額

甲土地及び丙土地の長期譲渡所得の金額は、右(二)並びに前記第二の二8(一)及び(二)のとおり、甲土地の譲渡収入額である一〇〇〇万円及び丙土地の譲渡収入額である二四七五万円の合計三四七五万円から、甲土地の取得費二〇〇万円及び甲土地の譲渡に要した費用一一〇万五〇一二円、並びに丙土地の取得費一二三万七五〇〇円及び丙土地の譲渡に要した費用九一万八六三六円の合計額を控除した金額二九四八万八八五二円である(所得税法三三条三項、改正前の措置法三一条一項)。

また、乙土地の長期譲渡所得の金額は、右(二)並びに前記第二の二8(一)(2)のとおり、乙土地の譲渡収入額である二〇九万九八八〇円から、乙土地の取得費一〇万四九九四円を控除した一九九万四八八六円である(所得税法三三条三項、改正前の措置法三一条一項)。

したがって、本件各土地の課税長期譲渡所得の金額は、右二九四八万八八五二円及び一九九万四八八六円の合計額から、前記(二)の特別控除額である一〇〇万円及び一九九万四八八六円の合計額を控除した二八四八万八八五二円となる(所得税法三三条三項、改正前の措置法三一条一項)。

(四) それ故、国税通則法一一八条一項の規定による端数処理後の納付すべき税額は六四四万四七〇〇円となり、本件各土地の課税長期譲渡所得の金額及び納付すべき金額は本件更正処分と同額になるから、本件更正処分は適法である。

2  本件重加算税賦課決定処分の適法性

被告は、国税通則法六八条一項に基づき、原告が本件更正処分によって納付すべきこととなる税額一四四万九九〇〇円を端数処理した一四四万円(国税通則法一一八条三項)に一〇〇分の三五の割合を乗じて重加算税額を算出し、これを賦課決定したものであるから、本件賦課決定処分は適法である。

六  以上の次第であるから、本件訴えのうち、被告が原告に対し原告の平成六年分の所得税の更正請求に対して平成八年六月二八日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消すとの部分は不適法であるから却下し、本件更正処分等は適法であり、原告のその余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一二年六月五日)

(裁判長裁判官 馬渕勉 裁判官 佐藤明 裁判官 佐藤弘規)

別紙物件目録

一 甲土地

1 所在 香川県香川郡香川町

地番

地目 畑

地積 七四三平方メートル

2 所在 香川県香川郡香川町

地番

地目 畑

地積 三二〇平方メートル

3 所在 香川県香川郡香川町

地番

地目 墓地

地積 五六平方メートル

二 乙土地

所在 香川県香川郡香川町

地番

地目 畑

地積 五五・二六平方メートル

三 丙土地

所在 香川県香川郡香川町

地番

地目 宅地

(ただし、平成六年三〇日の地目変更までは「田」である。)

地積 四〇九・〇九平方メートル

別紙図面

〈省略〉

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